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July 28, 2016, 10:09 a.m.
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Pay it forward。きっかけはここにある?:ドイツ生まれの「LaterPay」が提供する、少額決済システムの妙手

「会員登録が必要だったり、支払いの手続きをしたりというのを後回しにすることで、利用者が記事の内容や質、得られた対価に納得した上で支払えるという仕組みを用意しました」。記事を先に読ませ、課金は後から行うこの仕組みは、定着できるのか――。

少額決済は本当に成り立つのだろうか。推進論者たちは、気に入った曲だけを購入できる米アップル社の音楽・映像配信サービス「iTunes」の成功例を持ち出し、ジャーナリズムの世界でも記事を1本ずつ課金するという仕組みは成り立つと唱えてきた。しかし、それはあまりにも楽観的すぎるというのが批判する側のこれまでの主張だ。今のところ、この仕組みがニュース配信の世界に導入され、報道機関に収益をもたらすという可能性はきわめて低いと言わざるを得ない。

ところが、これに異を唱える形で、まったく新しい少額決済の仕組みがドイツで始まった。カズミン・エネ氏が最高経営責任者(CEO)を務める「LaterPay」は2011年にドイツミュンヘンで設立された。注目されるようになったのは、ドイツ最大の週刊誌「シュピーゲル」が同社のシステムを導入したからだ。

同誌は、インターネットのデジタル版で初めてこのシステムを導入。一部の記事に少額決済を使って読めるようにした上で、他の多くの記事は、有料の会員サイトだけでしか読めないようにしたのだ。少額決済で読める記事は「シュピーゲル・プラス」。1000字を超えたところで、記事の続きを読むためには「39ユーロ・セント(約50円)」の支払いを求める案内が表示される仕組みだ。

ここまで読むと、よくある少額決済の仕組みと同じだと思われるだろう。しかし、LaterPayの独自の工夫はここからだ。実際に利用者が料金を請求されるのは利用料の総額が5ユーロ(約645円)に達してから。LaterPayは、バーでウェーターが注文の勘定を付けるように、利用者が何をどれだけ読んだかを把握し続け、利用金額が5ユーロに達した時点で初めてLaterPayの登録ページが表示されるという仕組みだ。こうした読者はおおむね15~25%ほどだと言われている。ここで利用規約に同意すれば、そのまま読み続けることができる。会員登録をしてログインするなどの面倒な手続きは不要だ。もし5ユーロに達しなければどうなるのか?上限に達しない限り、利用者が課金されることはない。

「我々の方式はプリペイドではない。ところが、この種の課金モデルの99%は前払い方式を採っている。金を払った後に、それで何を買うのかを決めるという仕組みだ」。エネ氏はこう力説する。「我々がやっていることは、インターネットの世界に『借用書』の概念を持ち込んだということです。それは、実社会で私たちが慣れ親しみ、信頼している仕組みだからです。確かに、記事ごとに料金を支払うという仕組みは有効でしょうが、私たちのやっていることはそれとは違います。登録したり料金を支払ったりという過程を後回しにしているのです。そうすることによって、その記事の内容や質、対価について納得した上で支払ってもらえると思っているからです」。彼が例としてあげたのが、日本でよく見かける「回転寿司」の仕組みだ。食べたいものを食べてから料金を支払うという仕組みだが、よく考えてみれば飲食業はすべてそのような仕組みだ。本格的な交際に至る前に、互いを良く知り合うためにデートをするようなものだという例えも飛び出した。

エネ氏によると、LaterPayが現在、抱えている顧客数は100程度だという。個人的なブログを運営している零細な事業者から小規模な出版社、週刊誌シュピーゲルまで様々だ。2014年に独誌シュピーゲルを顧客に得てから、ネットの世界でも借用書を使えるようにしたこの仕組みは他の業種にも広がりをみせている。「これは出版業だけにしか応用できない仕組みではない。読みたいものをいま読んで、支払いはあとでという概念は、例えばネットゲームの世界でも使えるはずだし、動画や映画にも応用できる。時間などの単位ではかれるコンテンツはすべてLaterPayの仕組みで販売することが可能なのです」とエネ氏は語る。

LaterPayの実態は課金システムの開発を専門とするIT企業だ。導入した企業は自前の「API」を経由するか、JavaScriptとしても利用可能で、オプションとしてWordPressプラグインにも対応可能だ。提供されるのは、登録やログイン、課金などの仕組みを利用者に案内する少額決済のプラン。これだけでなく、より広範に課金することができるよう、リピーターといわれるような熱心な利用者と、1度しかサイトを訪れず課金にも応じる意思のない利用者の間にいる「中間層」に狙いを定めた新しい課金システムも用意している。それは、一定の時間だけ会員資格を認める「タイム・パス」の仕組みで、独誌シュピーゲルもいち早く導入した。この仕組みを応用すれば、例えばニュースサイト内のすべての記事を閲覧することができなくても、例えばスポーツの記事だけ読みたいといったカスタマイズも可能で、自前で購読誌を組み合わせることによって自分だけのオンライン雑誌を作り上げることも可能だ。

しかし、様々な疑問も残る。PayLaterの仕組みは、利用者が新聞や雑誌の記事を1本単位で購入できるオランダ生まれのインターネット有料サイト「Blendle(ブレンドル)」とどこが違うのか。ネットの記事はタダという仕組みに慣れきっている利用者は、5ユーロの上限に達する前に、去ってしまうだけなのではないか――。

これに対して、エネ氏はこう語る。「我々の仕組みは、いわば『じょうご』のようなものです」。「すでに課金制に慣れ親しんでいるユーザーは従来通りの仕組みで十分でしょう。しかし、より熱心なユーザーであっても、週に何度かしかそのサイトを訪れないというケースであれば、時間制の『タイム・パス』は有効のはずで、最終的には、それに飽きたらず会員登録に至るかもしれない」。

LaterPayのすべての利用者でみた場合、上限に達してあとから課金されることに応じるとした利用者は72%に上る。課金に応じた利用者の8割は、実際に登録を行って支払いに応じているという。

2016年秋にLaterPayは米国上陸を目指している。まだ、具体的な提携先の名前は挙がっていないものの、すでに複数の出版社がこの仕組みに興味を示しているという。同社の顧客のほとんどはドイツで、一部にオーストリアが含まれているだけだ。LaterPayを使用する複数の出版社に収益を取材したところ、公表に応じる社はなかったものの、エネ氏はLaterPayを使用するブログ運営者の事例を挙げ、2万4000ドル(約270万円)の収益を上げたと語った。これは時間制の「タイムパス」を導入したことによる効果だという。

しかし、少額課金を巡っては、まだ多くのメディアはその効果に対して懐疑的だ。無料が当然という現状に慣れきってしまっている多くのネットユーザーたちが、いまさら、どんなに利用料を引き下げ、どんなに手続きを簡単にしたとしても、有料サイトに戻ってくるはずがない。そう悲観しているのだ。

しかし、エネ氏はそうした声に反論する。「利用者に対して、タダのコンテンツがいいか、それとも定期購読したいかと聞けば、ほとんどの人がタダの方がいいと言うでしょう。ドイツ人でもそれは同じです。しかし、そうとは限らないと思います。それは、これまでユーザーに対して他の選択肢を示していなかったからなのです」。そして、こう続けた。「米国でも同じことが言えると思います。決して一過性の出来事ではありません。私たちは多額の投資をして、コンテンツ制作者のために様々な課金システムを用意し、実験も経てきました。そして、わかったことは、これ一つで誰もが納得できるという『万能薬』のような仕組みは存在しないということなのです」

翻訳 読売新聞 / Translated by Yomiuri Shimbun.

POSTED     July 28, 2016, 10:09 a.m.
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